社労士よもやま話(3)

 数多い重度の後遺症事件の中で、今までに取り扱った労災1級の障害になった事件は6件。その中で、今も生存していて被災者と長いお付き合いが続いている事件がある。

 建築業の2次下請けの28歳の独身作業員が、新築4階建ての3階の作業床から転落をして頚椎を損傷したとの事故報告がクライアントから有った。

 入院先のK大の医師からは、車椅子になる可能性が有ると言う説明があったと言う。

 翌日、事故内容を把握しようと早速現場調査に向かい、事故発生時の様子を再現を試みたが、目撃者が居ないので事故状況がつかめない。その足で病院に行き被災者に事故当時の様子を聞いたが記憶がない。

 被災者の足の裏をボールペンで撫ぜたが無感覚、手の握力も感触がない。担当医に聞いても頚椎損傷で車椅子生活になるのではということ以上の説明はない。

 事故と言うものは、よほどのことない限り、事件の目撃者と言うものは見つからない、そこで事故が発生した環境から、事故の発生状況を推測するのだが、これがかなり難しいし、情報の収集には限度があるが、事件解決には避けて通れない調査である。

 「其処でこの状態では首から下に全身麻痺が発生する。場合によっては寝たっきりになる」とまるで医者のような判断を今までの経験からした。

 それは、一次下請けであるクライアントに被災者の病状と将来予想される補償額と、会社の取るべき方針案を提示しなければならないからだ。

 大学病院などの地域の中核病院は、どんな患者でも緊急処置が終わるとリハビリを兼ねた病院に転医させられる。

 被災者は運良く国立の温泉病院に転医することが出来た。このころ被災者は残っていた腕力で車椅子を移動することが出来るようになってきた。

 2回目の転医もやはり国立の箱根病院。何と其処では社会復帰に向けて自動車の運転免許も取らせてくれたが、症状が固定すると退院をしなければならない、しかし、被災者は家族の住む町の近くの国立病院に転医して、此処で継続治療を受ける事希望したが、此処でも一生病院暮らしは出来ない。

 筆者は被災者と何回も将来のライフプランの打ち合わせを行っているうちに、病院の近くに永住地を見つけ、其処で障害者の立場で障害者のための活動をしたい、と言う人生計画が固まってきた。

 其処で、被災者の雇用主は全く資力が無いので元請の建築会社と1次下請けであるクライアントに事件の損害賠償の解決案を提示した。

 其れは、今、入院をしている国立病院に車椅子で通院できる距離に,1級障害者が住める住宅を賠償金で提供をしようと言うもの。

 元請もクライアントも建築屋の癖に,被災者が満足する住宅は提供できないと、被災者と筆者が練りあげた提案に逃げ腰、提案者である私も実現可能なのか不安に襲われた。

 然し、物事は「案ずるより産むが易し」、元請もクライアントも出来ないのなら俺がやってやる。

 社会保険労務士と言うのは、色々な業種のクライアントが居る。設計事務所とクライアントのゼネコンに完全バリアフリー住宅建築の勉強をして見ないかと提案したら是非やってみたいという。

 そこでクライアントの不動産屋に地域指定で土地探しを頼んだが見付らない。 其処で筆者は休日を返上、車で該当地域で土地探し、真剣になると問題は解決するもの。土地は持ち主に直接交渉で希望する土地が買えた。

 出来上がった住宅はまるで病院のような施設。ベットから風呂場まで電動のキャリーで移動が出来る。システムキッチンは本人も使えるように上下する。自動消化設備もある。もちろん玄関はオートロック。間仕切りは総て釣りドア、床は無論オールフラット。

 被災者と一緒になって考えた究極のバリアフリー住宅が出来上がった。生活費は障害年金で心配ない。介護費用は労災から介護給付がされる。

 今でも時々尋ねるが、先日は、先生、今、俺、忙しいんだ。身障者が身障者のための旅客運送業の免許申請を勉強しているんだ、何年かかるか判らないがやってみたいと言う。

 起きてしまった事故、これは戻すことは出来ない。この現実を其の儘を受け止めて明日に向かって努力をしている姿が美しい。

 この被災者から教えられることが多くあった。こんな楽しい事件解決、まさに「職業冥利に尽きる」である。

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